フェイクニュースを製造し、選挙を動かす会社があった

ジャーナリスト
(イメージ)フェイクニュース製造会社は、知らないうちに各国の選挙や政治に介入し、人々を動かしていた(iStock)

ハッキングや妨害工作、ソーシャルメディアで偽情報を拡散して政治工作をするイスラエルの企業に、メディア30社が協力して潜入取材し、その実態の一端が明らかにされた。「情報ガラパゴス」の日本では伝えられないが、かなり恐ろしい報道だ。

情報を大量に流し、選挙に影響

この問題は英・ガーディアン、イスラエル・ハーレツなどが共同で行った取材で明らかになった。2月15日に各社が同時公開した。

ガーディアンの記事は以下の通りだ。
Revealed: the hacking and disinformation team meddling in elections(更新:ハッキングと偽情報を提供する集団の選挙介入)

ガーディアンの記事と、そこに掲載された「ジョルジ」こと、元イスラエル特殊部隊員で情報工作の専門家、タル・ハナン氏

50歳の情報工作担当の元イスラエル特殊部隊員で、現在は「ジョルジ」という偽名を使って活動しているタル・ハナン氏が率いる会社「チーム・ジョルジ」により、アフリカや中南米、ヨーロッパなどで情報工作が行われていたという。

政治コンサルタントを装ってチームに接触した取材記者グループに対し、ハナン氏は自社のサービスの詳細を数回、合計6時間に渡って述べた。

他人のメール乗っ取りは可能

顧客は世論を秘密裏に操作したい情報機関や政治運動組織、民間企業などだ。「ブラックオプス」(秘密作戦)と呼ばれる自分のサービスパッケージを提供するという。

その主要サービスの1つは「Advanced Impact Media Solutions(Aims)」と呼ばれるソフトウェアパッケージで、これはTwitterやLinkedIn、Facebook、Telegram、Gmail、Instagram、YouTubeといったサービスに登録された何千ものユーザーアカウントを一度に操作できるものという。一つの情報を文体や形を変えて、こうしたメディアに同時に送りつけるものらしい。

またハッキング(乗っ取り)も行っている。ハナン氏らはGmailやTelegramの他人のアカウントにアクセス、ハッキングを、技術は見せずに披露した。

チーム・ジョルジは情報操作活動の一部をイスラエルの情報セキュリティ会社「デモマン・インターナショナル」を通じて実行していたことが、取材で明らかになった。イスラエルは、防衛産業の輸出促進を行っている。このデモマン社は同国国防省が支援する企業として政府ウェブサイトに掲載されている。記者グループが国とチーム・ジョルジの関係について、イスラエル政府、国防省にコメントを求めたが、返答はしていない。

他国の国政選挙に33回干渉し、成功を自称

それではこれまで、この会社は何をしたのか。ハナン氏は記者グループに「今はアフリカの選挙に関わっている。大統領選挙レベルの国政で33回活動し、そのうち27回は成功させた」などと実績をアピールした。

同社にGmailの乗っ取りをされた可能性のある、ある国の政治家に記者グループがアプローチをした。調べると、実際に身に覚えのない操作が行われ、その痕跡が消されていたことが確認されたという。

またライバルの権威を失墜させる方法も示した。報道機関に偽情報を流し、Aimsで拡散する。また政治家に浮気の疑惑をかけるべく、政治家の家に政治家の名義で通信販売で「大人のおもちゃ」を買い、妻に分かるようにするなどの行為だ。記者グループが追跡調査を行った結果、英、米、独、カナダなど約20カ国で、チーム・ジョルジの活動の痕跡があった。政治家だけではなく、企業がライバル企業に行う行為があったという。

ハナン氏は記者グループに対し、サービスにかかる費用はビットコイン等の仮想通貨や現金など、さまざまな通貨での支払いを受け付けると述べた。取材では、中南米のある国での活動に対し16万ドル(約2100万円)が請求されたことが分かっていた。今回、アフリカ某国での架空の活動を求めた記者らには600万ユーロ(約8億6000万円)から1500万ユーロ(約21億5000万円)の見積もりが示されたという。

チーム・ジョルジの実態が報じられた後、ハナン氏はチームの活動や手法に関する詳細な質問には答えず「いかなる不正行為も否定する」と回答している。

これが記事のあらましである。

選挙介入がより洗練されたビジネスに

あまりにも恐ろしい。民主主義を人為的にコントロールしてしまう人たちがいるのだ。そしてこうした企業はありそうだと予想はできる。かつて欧米やロシアは諜報機関や軍事力、多国籍企業は傭兵を使い、中南米やアフリカなどの政権を変えることがあった。またメディアの国のアメリカでの広報活動で1990年代にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、弱小国のボスニア政府を有利に導いた広告会社の話を書いた「戦争広告代理店」(講談社)という優れたルポを読んだことがある。しかし、今はITと民主主義を使って政治を動かす。

それをイスラエルは、国の支援で、こうした企業を支援し、情報コントロールを行っている可能性がある。

この前、紹介したChatGPTや画像生成などの進化するAI(人工知能)の表現技術と、こうした世論工作の仕組みが合わさった場合に、仮想現実が作られ、民主主義がコントロールされてしまうかもしれない。(&ENERGY記事「賢すぎるAI、ChatGPTを使ってみたー書く営みが変わる」)

2016年に米国大統領選挙で、英国の選挙コンサル会社のケンブリッジ・アナリティカの介入が問題になった。同社は2018年に廃業した。ロシア政府が、同社のデータ解析技術を使ってトランプ陣営が有利になるかのようなSNS工作を行ったというものだ。疑惑は曖昧なままに終わった。チーム・ジョルジは実際に操作を成功させたと誇っている。技術がより洗練されているようだ。

技術は、良い、悪いはないが、使い方次第で、人を幸福にも、不幸にもする。進化するAI、IT技術は民主主義を破壊するために悪用されている。国民が賢明でないと、民主主義が乗っ取られてしまうかもしれない。

こうした操作を行う人の心理も恐ろしいものがある。他人を裏から支配することに、「自分が何でもできる」という喜びや全能感を感じるのだろう。そうした壊れた倫理観を、私は全く理解できないが。

日本で情報コントロールをされていないか

日本にも、怪しい動きがたくさんある。例えば、電通、博報堂などの巨大広告会社は、政党の選挙キャンペーンを受注しているが、その会社の影響力を陰で使っていないだろうか。

自民党と商取引があった会社の社員が、執拗にネットで情報を提供した「Dappi」事件があった。統一教会と自民党の関与も取り沙汰されている。立憲民主党が、反政府学生団体シールズの残党の入社した広告会社に発注していた「ブルージャパン」事件、中立性を装ったネットメディア「Choose Life Project」(CLP)に、立憲民主党が資金を提供していたCLP事件などもある。人権団体の政治工作の浸透ぶりも、私は紹介した。(&ENERGY記事「Colaboの背景、不気味なネットワーク-行政が乗っ取られていた?」)

日本共産党とれいわ新選組の(失礼ながら)頭の悪そうな支持者が、党中央の支持なのか、毎日、大量にSNS、twitterで発信し、他の利用者に迷惑がられている。チーム・ジョルジのような企業のハイテクと能力を見ると、その古いバレバレのみっともない人海戦術が滑稽かつ、かわいく見えてしまう。

それ以外にも、外国の影の見える怪しい言論の動きは、この日本でもたくさんある。沖縄や北海道の基地問題、民族問題での怪しさは、私がさまざまな場所で伝えてきた。(&ENERGY記事「人権を名目、外国の不気味な干渉−北海道と沖縄で」)

民主主義を壊す外国の工作は、メディアや政府機関が、暴いていくことしか期待できない。しかし、日本のメディアのだらしなさと変な反日意識、日本の政府と世論の平和ボケは、皆さんご承知の通りだ。私たちは、こうした民主主義をハッキングする動きを常に警戒し、常に情報の裏を考える知恵が必要になりそうだ。賢明な日本国民も、状況によってはコントロールされてしまう可能性がある。

こうしたおかしな企業が、外国の意思によって、日本で今現在、蠢(うごめ)いていないだろうか。

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