書評「西洋の自死」ー日本は間違いを繰りすな 

ジャーナリスト

外国人の大量流入で西洋が壊れる

日本が外国人の大量流入によって混乱している。埼玉県ではクルド人による迷惑行為で、地域住民が苦しんでいる。

よく似た状況は、すでに西欧で30年前から発生し、現在も進行している。警告は続いていた。2017年に英国のジャーナリスト、ダグラス・マレーが刊行した「西洋の自死-移民、アイデンティティ、イスラム」(邦訳は東洋経済新報社、原題は「The Strange Death of Europe」(欧州の奇妙な死))がその一つで話題になった。少し古いが、それを紹介してみたい。

「欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した。欧州の大衆がその道連れになることを選ぶかどうかは、もちろん別の問題だ」

こんな文章で、この本は始まる。マレーのいう「自死」とは、西欧諸国で各国政府の移民・難民の受け入れ政策で流入した大量の外国人によって治安が崩壊し、社会混乱が発生している現在進行する状況を指している。その変化によって、もともと住む国民が苦しみ、さらにイスラム教徒の移民の増加でキリスト教が作り出してきた西洋文明そのものが変質しつつある状況もいう。

無視される民主主義

この本によると、欧州の移民・難民の増加は以下の経緯をたどった。

欧州各国の国民は世論調査では常に過半数以上が1960年代から移民の受け入れに否定的だった。それなのに国民の声は反映されなかった。公の場やメディアには、移民・難民を歓迎する声があふれ続けた。移民は経済成長に必要で、少子高齢化社会への有効な対策である。国は多様性に寛容であるべき。グローバリゼーションの流れに不可避である。そして気の毒な難民を助けよう。そんな理屈が述べられた。

外国人の流入が加速したのは1990年代の冷戦の終結後に、往来が自由になってからだった。そして2010年以降は、難民と自称する人が大量流入した。1990年代の政治家は未来の外国人の流入の影響を甘く考えていた。

それどころか国を憎む勢力がどの国もいた。外国人への国境の開放を、過去の西欧による植民地支配の「贖罪行為」とする人もいた。また自ら外部の力を使って国を変えようとする勢力もいた。そして1990年代から強まった「ポリコレ」(Political Correctness:政治的正しさ)の追求が、そうした社会の破壊の進行を助長した。

こうした外国人の西欧諸国への流入で、その集住する地域で治安の悪化が発生。移民は本国の習慣をそのまま持ち込み、同化しなかった。その増加で教育、街づくり、社会のあり方が大きく変わった。また賃金水準が低下して、中低所得層は打撃を受けた。しかし企業と高所得層は利益を得た。

政府とメディアは外国人犯罪を隠蔽

西欧諸国は寛容の実現のために移民を入れたはずだった。ところが流入したイスラム教徒は、非イスラム文明への敵意をあらわにする、女性や同性愛など性的な少数派に対する差別意識を持つなどの不寛容な人たちだった。その増加は、人権の尊重、法の支配、言論の自由という西欧諸国の根本的価値観を揺るがすようになった。ちなみにマレー氏は、同性愛者と、自分で公表している。

欧州諸国の政府機関、メディアは、こうした移民による犯罪、問題点を極力隠蔽しようとした。移民の拡大に疑問を持つ政治家や一般市民の疑問を、政治家、メディア、社会エリートは「極右」「人種差別主義者」「排外主義者」と批判、また無視した。移民反対は、国民の大半にとって「利益にならないから反対する」という当たり前の行動なのに、その批判者は、倫理に絡めて問題の論点をずらした。そのために問題は放置され拡大した。

元からいた白人住民が少数派になる地域が増え、多産の移民の増加により数十年後、各国の中心の民族が入れ替わる可能性が出ている。国の姿が変わってしまう。マレーは、西欧のもともとの姿を知る人がいなくなって、問題が解決してしまうかもしれないとしている。そして、こうした各国政府の行動を「自死」とマレーは指摘した。

西欧の失敗を追随する日本

この要約を見て、西欧の状況は日本の外国人問題、埼玉クルド人問題によく似ていると、読者の誰もが思うだろう。

ただし少し違う面がある。在日クルド人問題、外国人問題は移民というよりは、不法滞在の外国人を管理できない日本の行政の能力の低さの問題だ。また西欧のように、日本の外国人流入の流れに、特定の人々の意思が反映しているとは思えない。移民を入れて社会を変えようなどの異様な目的を持つ人はいるが、その数は少ない。日本と西欧に流入した外国人の欲望は同じだが、日本では関係者の無責任、だらしなさが集積して、問題が大きくなってしまったように思える。

安い労働者の存在は、政治信条に関係なく魅力的だ。どの国でも、移民拡大は、保守、リベラル双方が推進した。経済界からの、安い労働力を求める強い要望があった。日本でも同じだ。保守派の偶像化している安倍晋三元首相が、この移民拡大政策に舵を切った。

その他のこの本の示す西欧の失敗は、20年ほど前の状況が今の日本に非常によく似ている。やや冗長な部分、日本の読者にはあまり関係がない部分はある。しかし西欧人の心理にまで踏み込んで、移民を受け入れてしまう事情の分析は読み応えがある。外国人問題を考える人には一読を勧めたい。

日本の自死を止める参考に

日本政府は24年に、外国人を働かせるための育成就労という制度を作り、この制度で82万人の外国人の流入を予想している。新制度では家族の呼び寄せを認める。これは狂った行為だ。埼玉のクルド人は私の推定では最大4000人しかいない。4000人のクルド人を管理できずに埼玉南部が混乱しているのに、数百万人の外国人が入ったら、日本は壊れてしまうことは明らかだ。

日本政府が、西欧の失敗を繰り返す、異様な行為をして日本を滅ぼそうとしている。これが奇妙な「日本の自死」の姿だ。

しかし私たち日本人は、日本政府による、西欧がしたような「自死」の道連れになる必要はない。

石井孝明
経済記者 with ENERGY、Journal of Protect Japan 運営
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メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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