陸自ヘリ事故、何が起きたか−専門家に聞く、低空飛行に注目
陸上自衛隊第8師団長などを含め10人の隊員が搭乗した陸自ヘリが4月6日消息を絶った。事故を起こした機種「UH60-JA」は安全性の高い機体として知られる。何が起こったのか。詳細な調査をまたなければならないが、航空専門家A氏に聞いた。インタビューは4月13日午後に行った。
目次
外部からの攻撃の可能性は?
質問(石井)―今回の事故では、巻き込まれた陸上自衛隊幹部の方の安全を祈念しています。台湾有事の可能性、中国との緊張の高まる東シナ海で起こった事件として、世界的に注目を集めています。外国軍による攻撃の可能性はあるのでしょうか。
A:自衛官の皆様の安全を祈ります。私はニュース、公式発表に基づいた考察をしています。そうした攻撃を示す情報は今のところ出ていません。また、これまで公表された飛行状況や回収された機体部分から見ての個人の感想としても、攻撃を受けたという印象はありません。
―伝えられる情報では、どこに注目していますか。
まずは飛行の状況です。公開情報によりますと、当該機の事故発生時には飛行高度が海面上150メートル(500フィート)付近にまで低下したと伝えられています。その少し前には海面上約300メートル(1000フィート)を飛行していたと報じられていますので、短時間のうちに高度が低下したとうかがえます。
飛行高度を低下させたのは、地形観察のための正常な判断によったのかもしれませんが、急な高度変化をしたようなことがあれば、ヘリコプターは、時として自機の回転翼による吹きおろしにはまってしまうことがあります。あくまで、可能性の一つとしてですが。
低空飛行によるバランス喪失の可能性
―吹き下ろしとは?
吹き下ろしとは、回転翼の運動に伴う下向きの風の潮流です。それにはまってしまうと、ヘリの機体は、上から見てぐるぐると回転しつつ高度が下がっていきます。
海面上150メートル(500フィート)は、東京タワーの下側の展望台の高度と変わりなく、仮に自機の吹きおろしにはまったと想定すれば、同機は回転しながらみるみる海面が迫ってきたことでしょう。
―そのような事態を起こさないように、機体は設計され、パイロットも状況を抜け出す訓練を受けているのではないでしょうか。
そのとおり考えて差し支えありません。操縦士は、その状態からの脱出を第一にしなければなりませんが、それには降下と回転が伴う状態で前方に突っ込むようにして、機体の飛行姿勢を回復します。
ただし高度の余裕がなければ、回復操作が間に合わず、機体はたちまちのうちに急落する場合がありえます。海面に激突した場合に、頑丈なUHヘリでも大変形と破壊が発生することがあります。事故機のこれまでに回収された機体部分にも注目していまして、胴体が海面に激しくぶつかってひしゃげた様子がうかがわれます。
煙などが遠方から見られたとの目撃情報もあります。海面衝突の結果、側面のドアが外れて胴体内に海水が流れ込み、燃料タンクは水面の打撃で破断して燃料が流出し、エンジンの排気で引火して煙が上がった可能性があります。
突然の発生がうかがわれる事故
―事故は突然発生したのでしょうか。
そう思われます。事故発生に伴うパイロットからの「メーデー、メーデー」(緊急事態発生)という無線での発信も、救難信号もなかったようです。余りにも急な事故で、とっさの応急的対応間もなくの海面激突とうかがえました。
また事故当日の風は、南から5メートル程度、瞬間でも6メートル程度と、それほど強くなかったものの、一定の風がありました。こうした風は、断崖や地形で強まることもあります。事故近くの伊良部島には断崖がありますので、それを乗り越えた風は断崖の先で渦を発生し、低高度では下向きの風や背風となり得ます。当該機が低速で飛行し始めていたとすれば、そうした風も影響したかもしれません。この事故は複合要因の可能性もありますが、その一つになったかもしれません。
―機体本体が見つからない理由は何が考えられますか。
ヘリの機体は、エンジンが上にあるのでその重さで不時着水の場合には横転しやすくなります。残骸で回転翼が外れて見つかっているようですが、羽根が激しく水面を打って飛散した可能性があります。機体自体は、浸水とエンジンの重さで、上下逆となってみるみるうちに水没していった可能性があります。
この宮古島の周辺海域は、黒潮の流域であり、その北上速度は時速3〜5kmくらいです。潮流としてはかなり速いとされています。沈みゆく機体は、速い潮流に乗ってサンゴ礁の外側の深い海域へと流されていくことでしょう。周辺の海底は、島周辺のサンゴ礁が途絶えると深さを増し、やがて急に深まる形状です。場合によっては1000メートルの深海に沈んだことも考えておかなければなりません。
13日午後時点で、推定墜落現場から離れた、深い場所で見つかった可能性があるとの情報が出ました。機体が流されながら沈降した可能性があると思います。
(編集者註)その後、機体は水深100メートル付近で発見され、数名のご遺体も見つかったと、16日夜に発表があり、上記の予想が当てはまった。
―操縦ミスなどの可能性はあるのでしょうか。
それは分かりません。確たる事実の裏付けが得られない段階で、発言は慎重でなくてはなりません。通常の操縦能力を超える事態がなかったかも、現時点では何もわからないのですから、決して前のめりにはならないようにしながら真相究明に臨まなければなりません。操縦する自衛官は、求められる任務の達成を掛けつつ、決して無理な飛行に陥らないよう、日頃から鍛え上げたエアマンシップを発揮し続けていたと信じます。
今回の事故では、パイロットが、着任した第8師団長の視察で操縦をしていたということに注目してニュースを見続けました。低空飛行は、第8師団首脳部が、担当地域の宮古島の地形掌握をするためというような報道もありました。
それから、ヘリコプターは操縦者も同乗者も、固定翼機よりも疲労感が速く増していきます。ヘリを操縦する場合は、連続では5時間が限度とされます。この日のパイロットの飛行状況は分かりませんが、当該機は離陸15時46分、消息を絶ったのが15時56分のようです。
気になることを数え上げればきりがありません。以上は、あくまで現段階での個人的な推定に過ぎません。安全保障も関わることですので、機密に踏み込まないようになどにも注意し続けています。原因究明については、関係機関が責任を持って進めると理解しています。
その上で申し添えますと、原因がはっきりしないからといって不安を募らせることのないよう、得られる事実情報が限られる段階であっても、ありとあらゆる可能性を思い浮かべ、情報を共有しながら、安全な飛行継続に役立てるという側面もありますので、あえて以上のような見解を申し述べました。
結びとなりますが、現場で捜索に当たる皆様に敬意を表し、当該機に搭乗されていた方々が一刻も早く発見され地上にお戻りいただけることを、切にお祈りし続けています。
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4 件のコメント
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