繰り返されるロシア兵の戦争犯罪−虐殺、レイプ、独ソ戦との類似
目次
第二次世界大戦でのドイツでロシア兵が何をしたか
ノーベル文学賞受賞者のロシア人作家、アレクサンドル・ソルジェニーツィン(1918−2008)に『プロイセンの夜』という不気味な詩がある。
「少女が横たわる/少女は女になった/そして女から死体になった/こんな思いのために?/忘れるな/許すな/血の報いを/歯には歯だ!」(英語から筆者重訳)
のちに反体制作家となる彼は、第2次世界大戦に砲兵大尉として従軍していた。
大戦末期の1944年末から、ソ連軍(赤軍)はドイツ領内に侵攻した。そこで住民が大量虐殺され、女性への性的暴行(レイプ)が多発した。戦前のドイツの人口は約8000万人。東部では推計200万人の民間人女性がソ連兵に暴行された。首都ベルリンでは陥落後、200万人の住人中6割を占めた女性のうち10万人が暴行され1万人が中絶したと推計されている。(『ヒトラー最後の戦闘』(早川書房、コーネリアス・ライアン)など)
英国研究者による『イワンの戦争−赤軍兵士の記録1935−45』(白水社、キャサリン・メリデール)では、ソ連兵のドイツでの行動が示されている。戦闘終了後に、酒と食料を奪い、酩酊(めいてい)状態の兵士に、女性が年齢関係なく襲われた。その後、貧しいソ連にない時計、ラジオを探し、略奪後に家は焼かれた。住民の殺害も頻繁に起こり、死体から金歯が抜かれた。旧満州でソ連兵により在留日本人が受けた残虐行為と似ている。
復讐、共産主義の狂気、戦争が人を狂わせた
なぜ、こんなことが起こったのか。前述の詩に答えが含まれている。復讐と共産主義の狂気だ。
第二次世界大戦の東部戦線は凄惨な戦争だった。ソ連の死者・行方不明者は推計で軍人1200万人、民間人800万人。ドイツのそれは東西両戦線で軍人650万人、民間人200万人。そしてドイツは最大で600万人のユダヤ人を東欧で殺害したとされる。異常な数だ。
ソ連兵は誰もが親族を殺されていた。ナチス指導者のヒトラーは著書『わが闘争』(角川書房)でロシア人を「劣等民族」と罵倒して憎悪をあおり、東部戦線で独兵の残虐行為が多発した。ソ連兵の蛮行は復讐だったのだ。
『ベルリン陥落1945』(白水社、アントニー・ビーヴァー)で次のエピソードが書かれている。ベルリン防衛戦の直前に、少女が兵士にボランティアでスープを配っていると、黄金ドイツ十字章(勲功で上位から3番目の十字章を複数回受賞した勇敢な歴戦の兵士であることを示す)をつけた曹長が囁く。「お嬢さん、逃げなさい。俺たちがロシアでやったことを、イワン(ソ連兵の蔑称)がここでやったら、ドイツは無くなってしまうよ」。
そして当時のソ連では指導者スターリンと共産党の圧制が行われていた。ソ連の成立から大戦まで、政府の政治犯殺害や飢餓による累計死者は約2000万人とされる。ソ連の1930年代は「国全体が兵舎だった」(同書)。『イワンの戦争』では、ソ連軍将校の次の言葉が記されている。「燃える家の前でドイツ人の子供が泣き叫んでいた。その声を聞いて、私は彼らも人間だと気づいた。それまで人間以外の存在とドイツ人を思っていたのだ。後から振り返ると、当時の自分はおかしかった」。
誤った教育、プロパガンダにゆがめられた情報が人間性を失わせた。復讐心、性欲、勝利の快感、抑圧の反動などさまざまな理由が入り交じり、弱者のドイツ女性や残された市民にソ連兵の暴力が向かった。
ロシア人の国民性は純朴とされ、偉大な文化を持つ国だ。その伝統を持つ兵士たちが、戦場で狂ったのは大変恐ろしい。前述の『イワンの戦争』には、年老いたソ連兵らのインタビューが記されている。どの兵士も勝利は語っても、ドイツで自らが行った惨劇には口を閉ざした。彼らも普通の人間で、目が覚めると自分の狂気を恥じた。
ウクライナ戦争で繰り返される戦争犯罪
現在行われているウクライナ戦争でも、ロシア兵の蛮行が伝えられている。市民の虐殺、女性への暴行、略奪行為が報道されている。ウクライナによるプロパガンダや、誇張した情報もあるだろう。性犯罪を自国女性がされた、戦争犯罪が行われたという報道は、当然その国民の怒りを誘うからだ。ただし写真や映像の報告が繰り返されており、ロシア軍がそうした戦争犯罪を犯している可能性が高い。
現在のロシア、またロシア軍は、第二次大戦を「大祖国戦争」と呼び、ファシストを打ち破った偉大な戦争と賛美を続ける。それがプーチン政権になって、近年強化されている。国の求心力を高めるためだろう。
ここまで記したように独ソ戦は救いがない、あまりにも悲惨な戦争だ。そこから導かれるロシアにとっての教訓は、西側は彼らを騙し、ロシア国民を数千万人殺害しかねず、ヒトラーのような政治家がロシアを虎視眈々と狙うという、救いのない疑心暗鬼に満ちたものとなる。ロシア軍は無批判にソ連軍の勝利の伝統を賛美し、継承し、それに即した教育を今も続けているようだ。強い半面、野蛮性を残したソ連軍の文化をそっくり継承したのが今のロシア軍だったら、同じ残虐行為を繰り返すのも当然だろう。
日本を憎む国に囲まれる私たちの恐怖
今のプーチン政権は、ウクライナへの侵略を、ファシストや悪魔と戦う正義の戦いと呼んでいる。ロシア正教会トップのキリル総主教は10月、プーチンを「反キリストを掲げる者に立ち向かう闘士」や「首席エクソシスト」と呼んだそうだ。あまりにも異様で幼稚だ。
ちなみにスターリンは、独ソ戦で共産主義のプロパガンダを少し減らし、ロシア正教への弾圧を停止し、ロシア人の愛国心を揺さぶるために「大祖国戦争」という呼称を採用した。スターリンと当時のソ連共産党という異様な集団でも、国民を動かすために策を練る冷静さはあった。スターリンは神学校を中退し、共産党のプロパガンダを担当した経歴がある。宗教や思想の強さと怖さを知っていたのだろう。スターリンとソ連共産党より、プーチン政権とロシア社会、宗教界が感情的になり、知的に退化しているのは恐ろしい。
こうした異常な集団への怒りと不気味さを新たにし、一刻も早いウクライナの勝利を祈りたい。
そして振り返って、現代日本を取り巻く国際情勢を考えてみる。日本はロシア、中国、北朝鮮、韓国という異常な国家に敵意を向けられている。その敵意は、彼らの歪められた世界観、歴史観に基づいている。ロシアは日本を「ヒトラーの同盟者、ファシストの一味」と呼んでいる。独ソ戦の狂気、そして今のロシア軍の狂気を知ると、仮にこれらの国と戦った場合に、そうした敵意が恐ろしい暴力の形で日本と日本人に噴出しないか、懸念せざるを得ない。
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